トスカーナでは8つのの食材がDOP(Denominazione di Origine Protetta保護指定原産地表示)食品に認定され、さらに別の8つの食材がIGP(Indicazione Geografico Protetta 保護指定地域表示)食品に認定されている。
料理では、使用する調味料がシンプルなだけに、オリーブオイルは常に厳選した最良のものが好まれる。トスカーナ地方には二種類のDOP食品指定エクストラヴァージン・オリーブオイルがある。
「キャンティ・クラッシコChianti Classico」地方産のDOP認定エクストラヴァージン・オリーブオイルと、あるいはシエナ近郊で生産される「テッレ・ディ・シエナ Terre di Siena」DOP指定エクストラヴァージン・オリーブオイルである。良質のオリーブを産する地方は他にもあるが、トスカーナは収穫されるオリーブの品質が平均して高い。これら二種のエクストラヴァージンの他にも、
より気軽に使用できコストも安い通常のオリーブオイル「オーリオ・ディ・オリーヴァ・トスカーナ Olio di Oliva Toscana」ですらIGP食品の認定を受けるほどである。オリーブオイルはまさにトスカーナ料理の陰の主役である。そして塩味がなく表面の固いトスカーナ・パンは、力強く濃厚な料理の味を引き立てるのに欠かせない名脇役。

アンティパストantipatoの「トスカーナ風前菜盛合せAntipasto Toscana」は山間部の特産物を集めた一皿で、
どこでも注文できるポピュラーな一品。
アンチョビとケイパーを加えた濃厚な鶏レバーペーストを、
トスカーナ・パンの上にのせたカナッペ「クロスティーニ・ディ・フェーガトCrostini di Fegato」と、
フェンネルシードを練りこんだサラミ、フィノッキオーナFinocchionaが盛られていることが多い。
初夏と初秋は新鮮な生のポルチーニ茸(フンギ・ポルチーニ funghi porcini)が収穫される時期。
この時期にトスカーナを訪れたら、アンティパストのメニューの中に「クロスティーニ・ディ・フンギポルチーニ
Crostini di Funghi Porcini」を探してみよう。ニンニクといっしょに軽く煮た薄切りのポルチーニ茸を、トーストした
パンの上にたっぷりのせた香り高い料理だ。
トスカーナ各地で収穫されるポルチーニ茸の中でも、とりわけ「フンゴ・ディ・ボルゴターロ Fungo di Borgotaro」はIGP食品
に認定されている。

DOP認定を受けたトスカーナ・ハム「プロシュット・トスカーノ・DOP (Prosciutto Toscano DOP)」が盛られていればさらに味わい深いだろう。
ラードlardoの薄切りもアンティパストとしては人気があり、とくにIGP食品にも指定されているコロンナータ地方のラード、「ラルド・ディ・コロンナータ Lardo di Colonnata」は風味が素晴しくておすすめだ。
また、北隣のエミリア・ロマーニャ州特産のモルタデッラ・ハムはトスカーナ全土でも生産されており、良質のものはIGP食品に指定され「モルタデッラ・ボロニェーゼ・IGP (Mortadella Bolognese IGP)」として知られている。
脂肪分の小さな塊りが均一に練りこみ、よく乾燥させて仕上げられる小振りのサラミ「サラミーニ・イタリアーニ・アッラ・カッチャトーラ Salamini italiani alla cacciatora」もDOP食品である。これら良質の加工肉食品を、単品でアンティパストに選んでももちろんすばらしい食事になることは間違いない。
さらにチンタ・セネーゼ Cinta Seneseと呼ばれる希少種の豚のサラミsalameやハム prosciuttoを食する機会があれば逃さないようにしたい。香り高くとろけるこの豚の肉の舌触りは食通を呻らせる一品である。

プリモピアットprimo piattoの冬の定番は「リボッリータRibollita」。
多種類の野菜のスープに固くなったトスカーナ・パンを加え、オリーブオイルで仕上げる滋養豊かな一品。
野菜の甘みとバジルの香りが爽やかなトマト風味のパン粥「パッパ・アル・ポモドーロPappa al Pomodoro」も食材はトマト、
ニンニク、バジル、パンのみといたってシンプルで、おなかにも優しい。
秋・冬なら「フェットゥッチーネ(きしめん状の平打ちパスタ)のイノシシソース和えFettucine al Cinghiale
(フェットゥッチーネ・アル・チンギアーレ)」を是非味わってみたい。
バジルが最も香り高い夏場には、爽やかなパンのサラダ「パンツァネッラPanzanella」も味わってみたい。
野菜の旨味をストレートに味わいたいなら「アクアコッタAcqua Cotta」がすすめ。水、塩、胡椒だけで野菜を煮込み、
ペコリーノチーズを振りかけたマレンマ地方の伝統料理だ。
「ペコリーノ・トスカーノ Pecorino Toscano」はDOP食品でもある。また沿岸部のグロセット地方で作られる
「ペコリーノ・ロマーノ Pecorino Romano」もDOP食品で、ペコリーノトスカーノよりも塩分が多く、
主に料理に使用される。暑い夏に涼を取るには、冷たく冷やしたスペルト小麦farroのサラダ
「インサラータ・ディ・ファッロ Insalata di Farro」はいかがだろうか。
ルッカ近郊で収穫されるスペルト小麦「ファッロ・デッラ・ガルファニャーナ Farro della Garfagnana」はIGP食品。
小さく切った野菜と、繊維質たっぷりで、ぷちぷちした食感が魅力のスペルト小麦を混ぜ合わせ、
よく冷やしたサラダなら盛夏でも食が進むこと間違いなしだ。

セコンドピアットsecondo piattoのメニューなら、最低でも500g以上で調理される豪快なTボーンステーキ
「フィレンツェ風ビフテキBistecca alla Fiorentina(ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ)」が名高い。
この料理の名称は、キアーナ牛chianinaを使用したステーキにのみ許される。キアーナ牛は肉汁が多いため、
旨味を逃さないように表面のみを焼き固め、あとは塩、胡椒、レモン、
オリーブオイルを振りかけただけでいただくのがフィレンツェ風。
旬のイノシシ肉を使った料理も多く、秋・冬なら
イノシシ肉のシチュー「チンギアーレ・イン・ウミドCinghiale in Umido」を是非味わいたい。
脂身が少ないイノシシ肉はサラミsalumeやソーセージsalsicciaにも加工されるので、
滋味溢れる味わいを一年中楽しむことができる。
典型的な冬の料理なら「ペポーゾ Peposo」が筆頭だろう。2歳までの仔牛肉のぶつ切りを、
香味野菜とトマトでじっくりと煮込み、胡椒をたっぷりと効かせた料理で、
トーストしたトスカーナ・パンに熱々のペポーゾをかけて食べると心身ともに暖まること間違いなしだ。
IGP食品の、良質の仔牛肉
「ヴィテッローネ・ビアンコ・デッラッペニーノ・チェントラーレ Vitellone Bianco dell’Appennino Centrale」
が使われていればさらに味わい深いだろう。
家庭でも手軽に親しまれているのがモツ料理。細かく切った牛の第二胃袋(トリッパ)をトマトソースで煮込んだ
「フィレンツェ風トリッパTrippa alla Fiorentina(トリッパ・アッラ・フィオレンティーナ)」は、
モツ好きには外せない一皿。
白ワインと香草で下茹でされたトリッパは案外くせがなく、独特の食感が魅力。また屋台などでも売られている、
牛の第4胃袋「ランプレドットLampredotto」の煮込みもぜひ味わっておこう。
好みで塩・胡椒とバジル・ソースや辛味のあるソースをかけていただくシンプルで飽きのこない味だ。
代表的な付け合せ(コントルノcontorno)は、白インゲン豆fagioliやヒヨコ豆ceciを使った豆料理だ。
ピストイア近郊の小村ソラーナで収穫される白インゲン豆「ファジョーロ・ディ・ソラーナ Fagiolo di Sorana」
の風味の高さは名高く、 IGP食品に指定されている。
トマトソースとセージで白インゲン豆を軽く煮込んだ香ばしい一皿「ウチェレットUcelletto」
に使用すれば最高の味わいが楽しめる。ヒヨコ豆のスープ「ズッパ・ディ・チェーチZuppa di Ceci」
などもトスカーナらしい素朴で気取らない味わいが魅力だ。
トスカーナ料理にぜひともあわせたいのがキャンティ・ワイン。土着のブドウ、サンジョヴェーゼ種を主体に作られるキャンティ地方のワインは、通常のキャンティ・ワインとキャンティ・クラッシコ・ワインの二種に大別されるが、共に鮮やかなルビー色とフレッシュな味わいが魅力で、トスカーナ料理全般によく合うポピュラーなDOCG(Denominazione di Origine Controllata e Garantita 統制保証原産地呼称)ワインである。ビステッカや煮込みなどの胡椒の利いた強い味わいの料理にあわせるなら、ブルネッロ種を使用したより芳醇なフルボディの赤ワイン、DOCGブルネッロ・ディ・モンタルチーノBrunello di Montalcinoや、プルニョーロジェンティレ種から作られるノービレ・ディ・モンタルチーノNobile di Montepulcianoなどが料理の味をさらに引き立て、その余韻をさらに長く保たせることだろう。
もう少し手軽な赤ワインならDOC(「Denominazione di Origine Controllata 統制原産地呼称」) のロッソ・ディ・モンテプルチャーノRosso di Montepulcianoやロッソ・ディ・モンタルチーノRosso di Montalcinoなどを選んでもよい。いずれもこの地方で伝統的に栽培されてきたサンジョヴェーゼ種を主体とし伝統的製法で作られたワインで、トスカーン料理によく合う。

食後のデザートdolceにはアーモンド入り固焼きビスケット「ビスコッティ・ディ・プラートBiscotti di Prato(別名カントゥッチCantucci)」が定番。「ヴィンサントVin Santo」と呼ばれる琥珀色の甘いデザートワインに浸して食べるのがトスカーナ風。細かく切った果物の砂糖漬けやアーモンドを砂糖と小麦粉で固めた「パンフォルテPanforte」は濃厚かつ強い味わいの平らなお菓子。日持ちするのでプレゼントとしても喜ばれる。季節限定のお菓子では、1〜2月のカーニバル・シーズンに登場する、ほのかなオレンジ風味のスポンジケーキ「スキアッチャータ・アッラ・フィオレンティーナSchiacciata alla Fiorentina」が外せない。10月頃なら、やや重めのパン生地に収穫されたばかりの生の黒ブドウの粒をのせて焼き上げた「スキアッチャータ・コン・ウーヴァSchiacciata con Uva」をぜひ味わおう。トスカーナの秋のもうひとつの味覚は栗。オルチャ渓谷で収穫される「カスターニャ・デル・モンテ・アミアータ Castagna del Monte Amiata」はDOP食品、またムジェッロ地方で収穫される栗「マッローネ・デル・ムジェッロMarrone del Mugello」はIGP食品に指定されており、イタリアを代表する栗の産地としてトスカーナの名声を高めている。秋には乾煎りした焼き栗「カスターニェ・アッローストCastagne arrosto」を売る屋台が道端に現れるので、手軽に頬張って良質な栗の自然な甘みを堪能できる。またルッカ近郊で生産される栗の粉「ファリーナ・ディ・ノッチョ・デッラ・ガルファニャーナ Farina di Neccio della Garfagnana」もDOP指定を受ける最高級品だ。新鮮な栗の粉に松の実とローズマリーを加えた、自然な甘みが魅力の素朴なお菓子「カスタニャッチョCastagnaccio」は、秋のトスカーナを代表するお菓子。カスタニャッチョをその年の新酒ワインVino Novelloとともにいただくのがトスカーナならではの秋の楽しみ方だ。